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04.30
Mon

 トランクと土産袋を両手に抱え、まだ明るい道を急ぐ。
 豪は今、三日間の出張を終え、家に帰るところだ。
 今日は土曜日で、瑞垣も仕事は休みのはずで、急く気持ちのままに足を動かす。
 空港からという、いつもとは異なる帰り道が随分長く感じられた。
 ようやくマンションの前まで来て、なんとなく見上げたベランダ。そこには洗濯物を取り込む青年の姿。愛しい人を見つけて、豪の口許に自然と笑みが零れる。向こうも豪に気づいたらしく、ぱっと顔を輝かせて、急いで室内に戻って行くのが見えた。

「豪ちゃんおかえり!」

 玄関に入るなり、飛び付くようにして抱きついてきた瑞垣に豪は目を瞬かせ、それから抱き返そうとして手が荷物で埋まっていることに気づく。
 僅かに躊躇し、豪が言う。

「申し訳ないんですけど、先に荷物置いてもええですか」
「あ、そうやな。悪い」
「これお土産です」
「おおきに! はは、またようさん買うてきたなー」

 大きな紙袋を受け取って中を覗き見た瑞垣はそう言って笑う。

「地元の人にオススメ聞いたら色々教えてくれて。ほとんどお菓子になってもうたんですけど」
「ああ、神戸って洋菓子の町や言うもんな」
「あ、けど酒もあって。買ってきましたよ灘の酒」
「お、ええなー、早速今日の晩にでも飲むか。まあ、とりあえず豪ちゃんは着替えてゆっくりせぇ。風呂は? どうする?」
「夜でいいです。じゃ、ちょっと片付けてきますね」
「わかった。そんならおれはお茶入れるな」

 スーツを脱いで部屋着に着替え、使った下着類を洗面所の籠に放り込んで、リビングに戻る。
 するとキッチンから瑞垣の声が飛んでくる。

「豪ちゃんコーヒーでええ?」
「はい」

 ソファに座って待っていると、マグカップを二つ手に持った瑞垣がリビングにやってきて、それをテーブルに置くと豪の隣に腰掛ける。
 豪は傍に置いていた紙袋を取って一つずつ中身を出していく。

「何か開けますか?」
「賞味期限が一番早いのどれ?」
「うーん、まあどれも日持ちするみたいですし、好きなのからいきましょう」
「じゃ、これ。なんやろ、クッキーかな? なんかせんべいみたいな……」

 薄いそれに、軽く歯を立てれば、簡単に割れたそれは口内で溶けて、ほのかなバターの香りと程よい甘さが舌の上に広がる。

「うまい!」
「よかった、もっと食べてください」
「豪ちゃんも」
「はい」
「ところでどうやった? 神戸」
「よかったですよ、ご飯も美味しかったし、色々見て回りたかったけど仕事ですしね。それに、どうせなら瑞垣さんと一緒に行きたいなって」

 そう言ってはにかむ豪に瑞垣は嬉しくなって、豪の手をそっと掴む。

「今度旅行にでも行くか」
「行きましょう。ゴールデンウィーク、今からでも間に合うかな。ダメでもお盆とか。あ、どこかで有給使ってもいいですしね」
「そうやな、ちょっと調べてみるか」

 パソコンを起動させようとソファから立ち上がった瑞垣の手首を、豪が思わず掴む。
 せっかく傍にいるのに、離れるのは何だか勿体ない気がした。
 瑞垣がきょとんとした顔を振り向かせる。

「あとでいいです。それよりも瑞垣さんの近くにいたい」

 瑞垣は僅かに頬を赤くして、大人しくソファに戻る。豪の指に指を絡めて、ぴたりと体を密着させる。

「豪ちゃん、疲れとる?」
「え? まあ……」
「じゃちゅーだけでいいや」
「あ、いや、平気です!」
「ウソつき」

 察した豪が慌てて言うと、瑞垣はくすくす笑ってみせる。
 そうして繋いだ手をそのままに、豪の膝に跨がってくると、唇に唇を押し付ける。触れ合った途端、全身に痺れるような感覚があって、そうするともう止まらないとわかってしまう。
 わざといやらしい水音を立てながら、唇を貪っていると、互いのものが形を変えていくのに気がついた。

「夜まで待つつもりだったんですけど」
「おれも」

 唇を離して、笑い合い、そうして同時に言う。

「無理みたいや」
「無理みたいです」

 瑞垣の背に腕を回して、ソファの上に仰向けに寝かせる。
 熱っぽく瞳を潤ませて見上げてくる瑞垣の柔らかい髪をそっと撫でて、豪は息を漏らす。

「ずっとこうしたかったんです。離れとる間ずっと……」

 触れてキスして抱いて。息遣いだとか、声だとか、匂いだとか、あなたの全てを全身で感じ取って。

「俊二さん」

 瑞垣は少しだけ驚いたみたいに目を見開いて、そうしてふにゃりと蕩けるように笑う。
 そんなちょっとした仕草ですら、たまらなく愛しい。
 瑞垣の手が豪の頬に触れる。

「なあ、豪ちゃん、もっかい」

***

 勢いのまま立て続けに三回、ソファでやらかして、もう今日の晩御飯はおれが作りますからと言い張る豪をどうにか宥めすかし風呂に押し込んでから、キッチンに立つ。
 エプロンをつけて、よしと呟き気合いを入れる。
 和風ハンバーグも、タケノコとワカメの煮物も、ナメコの味噌汁も、近所の喫茶店で買ってきておいたケーキも豪の好きなものばかりだ。
 おいしいですよ。
 出来がどうであれ、いつも豪はそう言ってくれる。
 だからこそ、本当に美味しいと思ってもらえるものを作りたい。
 ご飯を食べて、デザートを食べて、それから少し、お酒を飲もう。豪が買ってきてくれた酒。
 そうそう旅行のことを話さないとな。酒を飲みながらでもいいし、干したばかりの布団の中でも。
 考えるだけでわくわくしてくる。
 風呂場の方から扉が開く音がする。シャワーだけ浴びてすぐに出てきたのだろう。
 なあ、豪ちゃん。
 電話でも言うたけどな。
 今度はおれが豪ちゃんを幸せにする番なんや。
 だから豪ちゃんも遠慮なんかしないで。もっと思うままに、求めるがままに、手を伸ばして。
 おれはもう豪ちゃんのものなんやから。
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