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12.25
Sun
白さんのところの和菓子屋豪ちゃんと狐俊ちゃんのイラスト可愛かったのでざっと書いてしまいました。
思いきりパロです。


 秋の、よく晴れたこんな夜。二人で月を見ながら団子を食べたことがある。
 ぴくぴく動く尖った耳と、金色の毛並みの尻尾を持つ子ども。
 もう随分と長い間、会っていない気がする。

***

 豪は小さな和菓子屋の一人息子で、両親が昨年亡くなった時は、まだ15歳の少年だった。けれど豪は頭がよく、菓子作りのことも幼い頃からしっかり教え込まれていたから、たった一人でも今まで何とかやってくることができた。
 近隣の住人や友人らの支えも、もちろんある。
 大店の息子である巧は商いの面で助けてくれたし、隣の老夫婦も何かと気にかけてくれた。
 周りの人はいい人ばかりだったし、豪も大らかで人柄が良かったので、皆から好かれていた。
 恵まれた環境には感謝していた。
 それでも寂しさだけはずっとあった。
 巧には3歳下の弟がいて、病弱だが素直で可愛らしく、豪にもよく懐いてくれた。羨ましいと思ったことが何度もある。豪には兄弟がいなかったから、両親を亡くして家族と呼べるものがいなかった。
 そんなある日のことだった。
 夕暮れ時、店の戸を叩く音があった。
 振り返ると、入口近くに小さな子どもが立っていて、豪は開きかけた口をそのままに固まった。
 頭頂部の左右に尖った獣の耳。そして背後に揺れるふわふわの尻尾。
 化け狐だと一瞬でわかった。

「だんご、ちょうだい」

 呆気に取られる豪に子どもが言った。
 小銭を乗せた掌を差し出してくる。
 狐や狸は人を化かす。恐らく小銭は葉っぱ小石かだろうと豪は見抜いていたが、どうせ売れ残ったものだしと思って、3つ程包んでやった。
 包みを受け取るなり子どもは逃げるように帰って行った。
 手の中にある小銭は既にその正体を現していた。
 完全な人型になりきれていないことといい、まだまだ幼く術に長けていない見た目のままの子どもなのだろう。何だか微笑ましく思って、豪は柔らかく笑みを浮かべた。
 その夜、玄関先にささやかな贈り物が置かれていた。
 芋や栗、それに山葡萄に茸といった山の幸。
 遠く聞こえてきた鳴き声に、送り主は先刻の子狐であることが知れた。

「だんご、ちょうだい」

 翌日、夕暮れ頃になると、またあの子どもが店を訪れた。
 豪は少し考えて言った。

「なあ、今日はここで一緒に食べていかんか?」

 子どもは目を瞬かせ、それからぱあっと顔を輝かせた。

「おまえ、名前は何て言うんじゃ?」
「名前は言えん。言うたらいかんって言われとる」

 縁側で茶を淹れつつ豪が問うと、子どもはもそもそと団子をかじりながら言った。
 曰く、名前を知られることは弱味を握られることであるらしい。

「そしたら、ちと不便じゃな。うーん、でもまあええか」
「不便? なんで?」

 首を傾げる子どもに豪は笑いかける。

「またいつでも来たらええ。団子用意しとくで。団子以外にも好きなものはあるか? 饅頭や餅もあるぞ」

 彼は頭と口のよく回る子どもだった。
 見た目は人間で言えば、4~5歳といったところだが、彼は化け狐だ。もっと長く生きているのかもしれない。
 子どもは毎日のように豪のもとを訪れるようになった。
 豪はふと思いついた疑問を口にした。

「なあ、おまえ家族はおるんか?」

 縁側に座った子どもは足をぷらぷらさせながら、ちらりと横目に豪を見た。

「母親がおったけど、ずっと前に死んだ。谷底に落ちてな」
「そ、それはすまんかった」
「気にせんでええよ、因みにな、ほんまはおれもその時一緒に死んだんや」
「え」

 豪は思わず硬直し、子どもはにっと笑う。

「冗談じゃ、ほら足あるやろ?」
「ああ、そうじゃな」
「豪ちゃんはあれじゃな、人が良すぎる。騙されたりせんか、おれ心配やわ」

 その言葉に豪は苦笑する。
 そしてやや躊躇いがちに言った。

「あのな、もし、嫌でなければなんじゃけど……おれと一緒に、ここで暮らさんか?」

 今度は子どもが驚く番だった。

「おれは、おまえが化け狐でも気にせんぞ」
「!」

 子どもは息を止めて瞠目し、ざっと顔色を失った。
 逃げだそうとするのを豪が咄嗟に腕を掴んで引き留める。

「すまんかった、怖がらせるつもりはなかったんやが。大丈夫じゃ、何もせん。ただ少しだけ、話聞いてくれんか?」

 子どもは動きを止めて、じっと地面を見つめている。
 その表情を背後からうかがうことはできない。
 豪は静かに言葉を紡ぐ。

「おれもおまえと同じでな。去年、親を亡くしたんじゃ。それからは兄弟もおらんし、ずっと一人でここでおったんじゃけど……だから」

 日はすっかり暮れて、夜になっていた。
 秋が近く、月が僅かに欠けていた。
 爽やかな風が草を揺らす。

「おまえが来てくれるようになって、すごく嬉しかった」

 ぴくりと頭の上の耳が動くのが見えた。

「なあ、ここで一緒の暮らそうで。おまえ、おれの弟になってくれんか?」
「………いつから?」
「ん?」

 子どもが俯いたまま、振り向きもせずに言う。
 どこか悔しそうに。
 捕えた手を離してやる。

「いつから、なんでわかったんや?」

 豪はちょっとだけ迷って、結局素直に答えた。

「最初からじゃ。気づいとらんのか? 耳と尻尾、見えとるぞ」

 慌てて頭と尻に手をやり、絶句する子どもに豪は笑って言う。

「それにしても綺麗な毛並みじゃなあ。まるで月の色みたいじゃ」

 そうして始まった妖との奇妙な暮らしは、しかし長くは続かなかった。
 ある時、豪が体調を崩し、長く寝込んでしまったことがあった。季節の変わり目で、恐らく疲れも溜まっていたのだろうと思う。
 話を聞きつけ豪の見舞いに訪れた巧は、子どもの姿を見るなり眉をひそめた。

「何考えてんだよ豪、あいつ化け狐だろ?」

 子どもが茶を淹れに行った隙に巧が気色ばんで言った。

「しかも一緒に暮らしてるとか、バカじゃないのか? 具合が良くならないのってひょっとして精気吸い取られてんじゃないの?」
「巧、あいつはそんな奴じゃ……」

 かたっと扉の向こうで音がして、はっとする。
 豪は布団から飛び出し、扉を開けたが、子どもの姿は既にそこにはなかった。

 子どもはあれ以来姿を見せなくなった。
 体調も戻らぬ状態で、近くの山や森を探したが見つからなかった。
 そうして月日が流れた。
 あれから3年が経つ。

 雲一つなく、綺麗に晴れた夜空。
 月が大きく明るく、そして少し欠けていた。
 あの日もこんな夜だった。
 あの狐の子どもは今頃どこでどうしているだろう。
 ひやりとした風が吹いて、葉擦れの音がする。
 今年の冬は寒くなりそうだ。
 着物の合わせ目を手で押さえ、部屋に戻ろうとした豪は不意に聞こえた鈴の音に振り返る。
 しかしそこに人の姿はなく、空耳だったかと思い、向き直って、
 
「久しぶりやな、豪ちゃん」

 驚愕のあまり悲鳴を上げそうになった。
 白い狐の面を付けた青年が目の前に立っていた。
 面の下から僅かに覗く青年の口元は笑っている。

「おれのこと、覚えてる?」
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