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12.01
Thu
しっとり系大人吉瑞


 12月25日午後7時の現在位置情報。
 自宅リビングの、炬燵の中。
 隣には、どてらを羽織って背を丸め、天板に顎を乗せた状態の瑞垣さん。冷めた目でバラエティ番組を眺めている。
 世間はクリスマスだイルミネーションだと浮かれてるっていうのにおれ達ときたら。

「ねー今からでもどっか行きませんかー? ねーねーねーねー瑞垣さーん!」
「うっさい、行くなら一人で行け」
「そぉんなつれないこと言わないでくださいよぉ、今日はクリスマスですよ、世の恋人達のためのイベントですよー」

 首に抱きつき、がくがく揺すれば、容赦のない力で頭をはたかれる。

「アホか、男二人でどこ行く気じゃ。独り身で寂しい男同士が惨めに慰め合っとるようにしか見えんぞ」
「慰め合うってのが、なんかやらしいッスよね。ていうかどう見られようがいいじゃないですか、おれ達はおれ達で楽しめばそれで」
「おまえはそれでええか知らんけど、おれがやなんですー」

 むすっとした顔で言われる。
 プライド高いの、マジめんどくさい。

「なんでおれがおまえみたいなアホと仕方なくおると思われに、わざわざ出掛けなおえんのや」

 どういうこと?
 よくわかんないけど、とりあえず出掛けるのは嫌ってことだよな。

「じゃ、ヒマな野郎友達集めてバカ騒ぎ」
「却下や」
「えーつまんないつまんないつまんないー」

 背中にべったり張り付いて喚けば、あーもー、ウゼェー!とグイグイ肘で押し返される。
 冷たい。
 一日外に出しておいたバケツの水並みに冷たい。

「大体な、今日みたいな日どこ行っても人だらけじゃぞ。待つだけでも一苦労、それなら出掛けるんはまた別の日にして、うちでゆっくりしとる方がええやないか」
「そりゃまあそうですけどー、なんかほら、便乗したいじゃないですか」
「相変わらずおめでたい頭じゃな」

 軽くあしらわれて、しぶしぶ離れる。

「あーあ、せめてチキンとかケーキとか買っとくんじゃった」

 台所に行き、冷蔵庫を開く。
 缶ビールを取り出して、つまみになりそうなものを探す。
 かったるそうな声が飛んでくる。

「おれもビール」

 缶ビール二本と、チーちくとスルメを持って炬燵に戻る。
 スルメうまい。

「別におれに合わせる必要ねぇよ」

 ビール片手に頬杖をついて、相変わらずつまらなさそうにテレビを見つめる瑞垣さんがぽつりと言った。
 ん?
 酔ってる?
 わけじゃねぇよな。まだそんな量でもないし。

「行きたいとこあるなら行きゃいいし。バカ騒ぎしたいなら……まあカラオケとか居酒屋とか、どっかは空いてんだろ」

 何言ってんだ、この人。
 こっち見ないし。

「でも、瑞垣さんは行かないでしょ? ここで、こうやって一人で暇そうにテレビ眺めてるんでしょ?」
「………」
「それじゃ意味ねぇもん」

 どれだけ周りが盛り上がってはしゃいでても、うまそうな酒と飯が目の前にあっても、きっと家に一人でいる人のことが気になって心底楽しめない。
 なんでそんなこともわかんないかな。
 テレビの中で今年ブームらしい芸人が見飽きたギャグをやって、笑いが起こる。
 瑞垣さんはそれにも無反応だ。そもそも、きっとまともに見ていない。
 リモコン取って、チャンネルを変えてやる。
 どこか古い町並みが映って、次に温泉が出てくる。
 瑞垣さんが独り言のように呟く。

「温泉ええな……」
「行きます?」
「今はどこも高いやろ」
「じゃ年明けてから」

 テレビの中では、豪勢な食事を前に芸能人が盛り上がってる。いかにもな感じの高級旅館の広い客室。
 こんな優雅なのは流石に無理だけど。

「行きましょうよ」

 瑞垣さんが顔を振り向かせる。
 ちょっと眠そう。
 瞬きする目がとろんとしてて。
 炬燵あったかいしな。
 ぼけっとしてんの、かわいいな。
 考えるような素振りを見せて、またテレビに視線を向ける。
 少し突き出した唇で、瑞垣さんがぽつりと零す。

「1月は、中頃とかなら……休めないこともない」

 うん、おれも月末月初は忙しいし、その辺りのが有り難いかな。
 あ、なんだ。
 横顔、
 なんかちょっと照れてる。
 かわいい。

「じゃ、行きたいとことかは?」
「どうせなら行ったことのないとこがええやろ」
「たとえば?」
「んー……あ、ていうかカニ食いてぇな」
「え~、あれめんどくさくないッスか~?」
「だったらおまえは食わんでええ」
「瑞垣さん剥いて食べさせてくださいよ」
「ハァ? 何でや。おれはおまえのおかんと違うぞ」

 眉間に皺を寄せる瑞垣さんを無視して、パソコン繋いで立ち上げる。
 カニとか温泉とか観光とか。
 検索しては、ああだこうだ言い合う。
 クリスマスの夜が過ぎていく。
 家だし、どてら着てるし、炬燵の中だし、パソコン覗き込んで憎まれ口叩くし、雰囲気なんてまるでないけど。
 この旅館いいなあとか。
 これ見てみたいとか。
 じゃ、この辺りでどうとか。
 年が明けたら瑞垣さんと旅行だとか。
 そんなん話し合って考えるだけでも、わくわくしてこない?

 ねえ瑞垣さん知ってた?

 おれこれでも結構満足してるんだよ?
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