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11.27
Sun
白さんへ捧げた海瑞。
瑞垣さんが女装してます。





 肩口にかかるまっすぐな髪は薄茶色。
 眉は綺麗に整えられた弓形で、扇形の睫毛が縁取る目尻はやや下がり気味でつやめいている。顎は細く、鼻梁は整っていて、薄い唇はほのかな桜色だ。

 それはもう、誰もがすれ違う度に振り返るような美少女だった。
 身に纏った学生服から、この大学の生徒ではないことが伺い知れる。
 あの制服、どこの学校だ。
 やべぇ、すげー好み!
 声かけてみるか?
 ざわめきは自然と当人の耳にも届く。すると彼女は、中高生にしては大人びた面差しで柔らかく笑み、男子学生らの心を高鳴らせた。

「なあ、あっちの方なんかあんのかな。なんかめっちゃ人おんねんけど」

 友人に肩を叩かれ振り返った海音寺は、そこで初めて第1講義棟の前にできた人だかりに気がついた。
 集まっているのはどういうわけか男子学生ばかりのようで、プラカードやチラシのようなものを持つ者も多く見られる。
 海音寺の通う大学はちょうどオープンキャンパスを兼ねた学園祭の時期で、だから最初はただのサークル勧誘かとも思ったが、それにしたって一点集中しすぎだ。
 有名人でも来てるのだろうかと友人が首を傾げる。

「ちょっと見に行ってみねぇ?」

 野次馬根性の友人に引っ張られるようにし、人混みを掻き分けて、輪の中心に出る。
 そこには気恥ずかしいのか、俯き加減に戸惑う少女の姿。
 うちの学校受けんの?
 それなら是非うちのサークルに!
 どこの学校?
 彼氏は?
 一斉に質問を浴びせられた少女は困惑顔で小さく首を横に振るばかりだ。
 見知らぬ人物のはずなのに、どこかで見たことのあるような気がして、海音寺はその横顔を仰視する。
 まさかなと訝りつつ、海音寺はその名を呟いてみる。
 先日午後からこちらに来るととメールを送ってきていた昔馴染み。

「瑞垣……?」

 喧騒にかき消されてしまいそうな程ささやかな声だったが、少女はぴくりと肩を震わせ、顔を上げた。
 視線が向けられ、少女の目が海音寺を捉える。
 助かったと言わんばかりのその表情で今度こそ確信した海音寺は、次の瞬間飛び付いてきた少女もとい瑞垣のせいで思わず背後によろめいた。

「彼氏持ちかよー!」

 男達はがっかりと肩を落として散っていく。
 残ったのは友人のみで、彼は海音寺の肩を掴んで激しく揺さぶった。

「なんや、おまえ彼女おったんかい、しっかもこんな美人! なあ、紹介してくれよ!」

 脂下がる友人にも瑞垣は、はにかむように微笑むばかりだ。
 当然だ。
 声なんか出したら一発でバレてしまう。
 海音寺は友人の手を払い除けると早口に言った。

「悪いけど!! 急用思い出したからおれ帰るな!!!」

 そうして瑞垣の手首を引っ付かみ、逃げ去るようにその場を辞した。


 県外の大学に通う海音寺は、キャンパスから程近いアパートの一室を借りて独り暮らしをしている。
 1LDKのこじんまりとした部屋で、割と綺麗な方だ。そこに瑞垣を押し込め、後ろ手に扉を閉めて、海音寺は長い息を吐き出した。

「まったく……おまえなんちゅう格好してくるんじゃ」
「似合うやろ?」

 さっさと部屋に上がり込んでいる瑞垣はかわいらしくスカートの裾をつまんで、くるりと回って見せる。
 短いチェックのスカートが翻って、下着が目に留まる。
 黒のボクサーパンツ。

「なんじゃ男ものか、中途半端じゃな」
「あほか、女ものの下着やか持っとるかい」
「制服は?」
「ああ、これか秀吾の姉ちゃんのやつや。処分するつもりや言うとったからもらった」
「あと化粧、しとるよな?」
「よおわかったな」

 瑞垣は意外そうに目を瞬く。
 瑞垣のそれはナチュラルメイクに近いが、それでも肌の具合や睫毛の長さを見ればよくわかる。

「これは秀吾んちのおばちゃんの仕業や」
「化粧ってすげえよな。化ける粧って書くだけあって、まじ別人みてえやもん」
「ばっかおまえ、元がいいんですぅー」

 眉根を寄せて言い、瑞垣は舌を出して見せた。

「しっかし予想外の反響には自分でもびっくりしたけどな。んー、さすがおれ、どんな服も着こなしちゃう!」

 確かに、口さえ開かなければ、十分女として通用する。
 身体の線は元々細いし、面差しも表情ひとつでかなり印象が違う。
 瑞垣は意図してそれを変えている。性別が女だったら、間違いなく悪女だ。

「それにしても一希ちゃんたら昼間っから大胆!」

 先程までの初心で大人しい少女はどこへやら。
 瑞垣が海音寺に絡み付いてきて、あでやかな笑みを浮かべる。ちゅっと音を立てて唇を吸い、股間に股間を押し付けてくる。

「おまえこそ乗り気じゃねぇか。ていうかその格好、なんか悪いコトしてる気分になるな……」
「優等生ぶって裏では不良の海音寺くんが今更何を言うとるんじゃ」

 瑞垣の指が海音寺の眼鏡を外して、近くの棚に置かれる。

「おまえにだけは言われたくねぇよ」

 海音寺は苦笑混じりに言う。
 そうして自らも瑞垣の腰へ手を回した。
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