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11.24
Thu
豪×瑞



 休日のショッピングモール。
 多くの人で混みあう中、見覚えのある顔が三つ。

「あ」

 豪は思わず足を止め、小さく声を上げる。
 隣を歩く人がその声を聞き留めて、豪の視線を追う。
 行き交う人々の向こう側。
 ディスプレイを覗きこみながら、何やら言葉を交わしているのは吉貞、東谷、沢口の三人組。
 向こうはまだこちらに気付いていない。

「え」

 ぐいっと手が引かれて、柱の影に二人で身を寄せる。

「瑞が……」
「しー」

 開きかけた唇に人差し指を押し当てられて豪は口を噤む。
 悪戯っぽく薄く微笑む瞳。
 小さく突き出した唇から覗く白い歯。
 彼らに気付かないまま、少年達が通り過ぎていく。
 喧騒が遠く感じる。

 安いコーヒー一杯で時間を気にせず長くいられるセルフサービスのカフェは流石に満席だった。
 仕方なしに数件先のレトロな喫茶店に入る。
 多少値は張るが、ゆったりとして落ち着いた店内。
 BGMにクラッシックの曲が流れている。どこかで聞いたことのある。
 確かそう、ドビュッシーの月の光。
 こういうところに入るのは滅多にないなと思う。
 それこそ親とか、大人と一緒に子どもの頃に何度か訪れたことがあるくらいだ。
 お冷やとメニューが運ばれる。
 お決まりになりましたらお呼びくださいと告げる店員に、「おれホットコーヒー」と瑞垣が言い、「あ、じゃあ、おれも」と重ねて注文しようとしたところ。

「豪ちゃんこれにしいや」
「メロンソーダ?」

 メニューを示す指先。
 細くて長い指。
 そこばかりに意識がいってしまう。

「永倉」

 ぼんやりしているうちに店員は下がっていたらしく、呼ばれて我に返る。
 瑞垣がくすりと笑う。
 人差し指が伸びてきて、唇に触れられる。

「永倉の唇って、やらかいのな」

 頬杖をついて、楽しげにそんなことを言われ、豪はかあっと耳まで真っ赤になった。

 明らかな着色料の緑色の中で気泡が弾ける。
 メロンの味なんてまるでない、名ばかりの飲み物。

「豪ちゃん、あとでそれちょうだい」

 底に沈んだ鮮やかな赤い果実を指して、瑞垣が言った。

「サクランボですか?」
「うん、そう」
「今取りますよ」

 ストローの先で軸を引っ掻けて引き上げれば、瑞垣は感嘆の声を漏らす。

「器用やなー」
「そうですか?」
「けど、おれも結構器用なんやで?」
「それははい、なんかわかります」
「ふふ」

 瑞垣は意味ありげに笑って、サクランボの軸を口に含んだ。
 目を瞬かせる豪の視線の先で、閉じられた唇が心なしか動いている。
 少しして瑞垣がぺろりと舌を出す。
 柔らかそうなその上にあるのは、結ばれたサクランボの軸。

「すごい」

 豪が純粋に呟いて、瑞垣は満足気だ。
 舌の上から軸を取ってソーサーに置く。
 瑞垣は僅かに首を傾ける。

「知っとるか?」
「?」
「コレ、できるのってキスがうまい言われてるんやで」
「…………言われてるんやでって」

 戸惑いも露な豪に瑞垣が問う。

「試してみる?」

 薄い唇が弧を描いている。
 それはとてもとてもつややかだった。
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