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11.20
Sun
海音寺と門脇と瑞垣
何もしてないけど雰囲気だけえろ

白さんからいただいた台詞お題
「そこ、気持ちよすぎるからもういやや」でした。



 幼い頃から我が家同然のように出入りしていた馴染みの家。その二階の廊下で門脇秀吾はドアノブに手をかけようとして、内側から漏れ聞こえてきた声に思わず硬直してしまった。

「ちょっ、まて海音寺、そんないきなり! いっ、イタッ! イタイって!」
「じき気持ちようなるから。痛いのは最初だけや」
「せやかて、いっ、ああ、あ……」
「力抜け、ほら」

 どこか甘いような海音寺の声と瑞垣の悲鳴。
 気のせいだろうか、ベッドが軋む音も聞こえるような……。

「うあ、ぁ、も、そこ……!」
「ああ、ここか、ここやろ? なあ瑞垣、素直に言うてみぃ。ここがええんやろ?」
「んっ、んっ、き、きもひぃ、いい、もっと、もっとぐりぐりひてえぇ……」
「俊―――――!!!?」

 鍵もついていないというのに、ぶち破るようにして扉を開けてしまった。
 ベッドの上、俯せに寝そべった瑞垣に跨がる海音寺の姿。
 ぽかんとした表情でこちらを振り返る二人。
 どちらもきっちり服を着ている。
 想像していた光景とは何か違う。

「なに、しとるんや?」

 言うことが他に思い付かなくて、とりあえず聞いてみた。

「なにって、マッサージじゃけど……」

 海音寺が呆然としたまま答える。

「あ、そ、そうか……」
「秀吾、おまえ」

 挙動不審な門脇の様子に、瑞垣が眉をひそめる。
 瑞垣のじとっとした視線が胸に刺さる。
 そんな秀吾の気まずさを知ってか知らずか、海音寺がいつもの調子で言う。

「瑞垣が腰痛い言うから、押さえとったんじゃ。おまえ野球止めて筋力落ちとるんと違うか?」
「そうかも、いっ!」
「あ、もう少し右だったか」
「秀吾」

 いきなり呼ばれて、ギクッてなる。

「いつまでそんなとこ突っ立っとるんじゃ、座ったらどうや」
「あ、うん……」

 低い声で言われて、何故か正座してしまう。
 ベッドの傍らで、二人を見上げる。
 瑞垣の痛みに歪んでいた表情が、心地よさげに和らいでいく。

「あ―、それにしても海音寺おまえ、うまいなー。すげー指テク」
「母親と姉貴に鍛えられとるからな」
「あ、あ、そこ、そこええ」
「こっちは?」
「あー、うん」
「わかった。ちと我慢せえよ、力入れんぞ」
「あっ!」
「こら、動くな」
「いっ! あ、も、って、そこばっか……」
「そんなこと言うけど、おまえここガチガチやぞ」
「あああん、らって、らってもう、そこ、気持ちよすぎるからもういややぁ……」

 なんなんださっきからこの卑猥な空気は。
 ただのマッサージだろ!
 そう、ただのマッサージ! たかがマッサージ! 所詮はマッサージだ、門脇秀吾!
 頭の中で言い聞かせつつも、門脇の目は瑞垣の横顔に釘付けだった。
 痛みに歪んだ眉。涙に濡れた瞳。上気した頬。半開きの唇から零れる唾液。
 あ、まずい。

「ちょっと、おれトイレ………」

 前屈みになりながら、門脇はよろよろと部屋を出ていく。
 他人の家のトイレに篭ること数分。
 すっきりした割には、なんだか疲れたような顔で出てきて、部屋に戻った門脇は、再び目の前で繰り広げられる光景に立ち尽くしていた。
 服は変わらず着ている。
 着ているが……
 ベッドの上、仰向けに寝転ぶ瑞垣の両足首を掴んだ海音寺の姿。

「おまえら、なにしとるんや……?」

 既視感を覚えつつ、呟く門脇に二人が同時に答えた。

「「なにって、ストレッチ」」

 ストレッチ………
 瑞垣がきつい目で睨みつけてくる。

「秀吾……」
「スマン……」
「何がスマンや」

 海音寺は黙ってそのやりとりを眺めると、ベッドから降りて言う。

「おれもちょっとトイレ借りるな」
「おう」

 そうして部屋の入り口で棒のように突っ立ったままの門脇の傍らを過ぎる際、海音寺は彼にしか聞こえないような小声で言った。

「エアプレーってのも、ええもんじゃろ?」
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