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10.21
Fri

「まあまあやな。60点」

 揚げ具合は綺麗な狐色で、見た目は少なくとも悪くない。
 味付けも濃い方がいいのか、薄い方がいいのかという好みはあるだろうが、調味料の分量は毎回きっちり計ってと試行錯誤している。
 それでもいつも、何か一味足りないのだと瑞垣は言う。
 豪は困り果てたように眉尻を下げた。

「マヨコロに対してだけ評価厳しすぎませんか?」

 瑞垣はこれまでに何度も豪の手料理を食べているが、いつもうまいと言ってくれる。それが世辞などでないことは見ていればよくわかるから、作っている方としても嬉しい限りであった。
 ところが彼の大好物であるところのマヨネーズコロッケだけは一筋縄ではいかないらしい。
 ネットで調べてみたり、料理本を読んでみたりしたが、それでも合格点をもらえなかった。豪にはもうどこを改善すればいいのかわからない。
 ただここまできて諦めるのも悔しかったから、こうなれば意地でも瑞垣の舌を唸らせてやると、豪は密かに決意していた。

「舌触り滑らかで、ジャガイモの甘味を残しつつ、マヨネーズの風味もしっかり利いている! それこそがおれの求めるマヨコロなのよ、永倉くん」

 そう言いつつも、瑞垣は豪の作ったものを残さない。
 またひとつ、口の中に一口サイズのコロッケを放り込む。

「リベンジします」
「ん、ガンバ! ところで豪ちゃーん、アタシ今日帰りたくないなー?」
「はい、わかりました」

 瑞垣が口許に拳を当てて可愛らしく言い、豪は苦笑する。
 あれ以来ほぼ毎日のように豪の家で食事をとるようになった瑞垣は、週末には泊まって帰ることが時折あった。
 そんな時は大抵、二人で夜更かしした。酒を飲みながら駄弁ったり、瑞垣が持ち込んだゲームで勝負したり、特に何をするでもなく同じ空間でダラダラ過ごすこともあった。
 食事を終えて、瑞垣が紙袋の中からまた新しいゲームソフトを取り出してくる。

「なあ、今日はこれやろうぜ」
「いいですけど、先にこれ片付けてしまいますから、それまで適当にしててください」
「じゃ、おれ先に風呂入ろっと。豪ちゃん、服借りるでー」
「どうぞ」

 勝手知ったるなんとやら。
 瑞垣はタンスの中から、適当な服を取り出すと、風呂場に向かう。
 風呂から上がった直後は暑いだろうと、豪はエアコンのスイッチを押す。送風口から冷たい風が吹き出してくる。
 季節は夏。
 一人暮らしを始めてから、4ヶ月が経とうとしていた。

 洗い物を終え、居間でくつろぐ。少しして軽快な声と共に風呂場に続く扉が開いた。

「あーさっぱりしたぁ!」

 振り返った豪は風呂場から現れた瑞垣の格好にぎょっとする。
 寝間着代わりのTシャツ一枚。 元々豪のものであるため、小柄な体格の瑞垣が着るとだぶついて見えるが、問題はそこではない。
 かろうじて太腿が半分ほど隠れてはいるが、そこから伸びる足が剥きだしだった。
 白くて細い足。
 思わず目を逸らしてしまう。

「な、んて格好してるんですか……!」

 喉を詰まらせそうになりながら豪が言い、瑞垣は髪を拭いながら答える。

「んー、ほらブカブカやし、どうせ穿いてもすぐずり落ちてくるし?」
「冷えますよ……」
「夏やし大丈夫じゃって。お前ほんまおかんみたいなやつやな。ていうか」

 瑞垣はそこでふと黙り、豪の目線の先に回った。

「男相手になにを照れとんのや?」

 しゃがんで豪の顔を覗きこみ、ニヤリと笑う。
 瑞垣がこういう顔をするのは、決まって良くないことを企んでいる時だ。
 豪は無意識に身構える。
 吐息のような笑い声を漏らして、瑞垣の指が豪の鼻先をつついた。

「そそった?」
「!」

 かあっと全身が熱くなるのを感じた。
 瑞垣はちょっと驚いたみたいに瞠目し、けれどすぐにいつものように鼻で笑い飛ばした。

「おい、冗談や冗談、何を真面目に受け止めてんねん。いくらなんでも初心過ぎやろ、中学生かよ」
「あ、の、すみませ……!」

 しどろもどろになる豪の、身体の前で組み合わされた足が落ちつかなげに動くのを瑞垣は見た。

「え」

 つい声に出してしまう。
 豪がはっとして、慌てて股間を両手で隠し、半ば泣きそうになりながら言った。

「すみません……」
「マジか……いや寧ろなんかゴメンね。そんであー、えっと、」

 冗談なのか本気なのか判別のつかない調子で瑞垣が言う。

「トイレ行く? それとも手伝った方がええ?」
「て、て、手伝うって……!」

 豪は思いきり身を引かせて叫んだ。
 瑞垣が手を伸ばしてこようとするのを必死に避ける。

「そりゃまあ、手でも口でも」
「からかわんでください! トイレ行ってきます!」
「え~遠慮すんなよ」

 過剰な反応が面白いらしく、瑞垣は立ち上がる豪の後をついていこうとする。
 その時、部屋の隅から電子音が鳴り響いてきて、瑞垣はイタズラの手を止めた。鞄の中から取り出した携帯を開いて、眉をひそめる。

「わりぃ、永倉。ちょっと急用できたから、帰るわ」

 言うなりその場でシャツを脱ぎ出す瑞垣に、豪はまた動揺して目を逸らす。
 下半身が疼いて辛い。
 瑞垣は手早く着替えを済ませると、片目を瞑ってみせる。

「この埋め合わせはまた今度するから、期待しといてな!」

 そうして瑞垣は鞄の引っ付かみ、慌ただしく出ていってしまった。
 豪はその場にへたりこむ。

「埋め合わせって……」

 期待しといてなって。
 意味ありげな物言いを思い返し、豪は前屈みになって悶えた。

 恥ずかしすぎて死にたい……。

***

 鍵を開けて、中に入る。
 玄関の方まで漏れ聞こえてくるテレビの音。
 物が少なくて、無機質な居間のソファの上に寝そべる男の姿。
 気配に気がついのか、振り返る。

「俊、遅かったやないか」
「残業や、こちとらお忙しいんだよ。おい、また飲んどんのか、やめぇ言うたやろ」

 ガラステーブルの周りに転がる空き缶を拾い上げて瑞垣は不愉快げに眉を寄せた。

「飯は?」
「適当に済ました」

 門脇は起き上がり、ネクタイを緩める瑞垣の腕を掴む。
 酔いが回って、熱を帯びた瞳が覗き込んできて、酒臭い息が顔にかかる。

「そんなら今からいけるよな?」
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