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10.10
Mon
前の豪瑞×2とつながってるお話です。
 この世の中で自分の望みを叶えられる人間が、果たしてどれほどいるだろう。

 すっかり落ちぶれた幼馴染みの姿を見ていると、どうしてもそんなことを考えてしまう。
 膝の故障に伴い、二軍落ち。
 加えて原田巧のメジャー入り。
 そんなことが続けざまに起こって、門脇は自暴自棄になった。練習に励むこともなく、自堕落な生活を送っているようだった。
 自分の元を訪れては無様な姿を見せ続ける門脇に瑞垣は苛立ちを募らせる。
 自分にはないものを持っているのに。
 どれだけ欲しいと願っても手に入らない。
 努力だけではどうにもならない。
 そんなものを彼は与えられているというのに。 
 酒に飲まれ、ソファに寝そべり、高鼾をかく門脇の胸ぐらを掴んで引き寄せる。

「ええかげんにせえよ、秀吾」

 強い怒気に当てられ、寝ぼけ眼だった門脇は一気に眠気と酔いが吹き飛んだらしい。
 息を飲んで、怒りに滾る瞳を見つめている。

「お前はいつまでこんなことしとるつもりじゃ。さっさと戻って練習せぇや」
「俊……」
「そんなんじゃから置いてけぼりにされんねん。お前は昔も今も、原田巧に負け続けとるんや」

 不敵な笑みを浮かべる瑞垣の身体が突然吹き飛んだ。
 瑞垣は背中から床に転がり、痛む頬を抑えて身体を起こした。
 それでもなお笑みを崩すことなく、瑞垣は辛辣な言葉をたたきつける。

「お前に原田を追い越すことは、一生できん」

 門脇が瑞垣の胸ぐらを掴んで、押し倒す。
 広く静まり返った室内で、誰も止めるものはいない。
 殺意にも似た激しい怒りが門脇の表情を歪めている。
 けれど門脇は不意に視線を逸らし、瑞垣の上から退いた。
 無言で部屋を出て行ってしまう。
 ビールの空き缶とコンビニの袋と忘れられた上着が床に散らばっている。
 無機質な天井を虚ろな目で眺めながら、瑞垣は考える。
 わかっているのだ。
 きっと彼自身わかっていて苦悩しているのだと、瑞垣も理解している。
 それでも瑞垣は許せない。
 だって門脇は自分には持ちえないものを持っているのに。
 瑞垣が欲して止まないものが門脇にはあるというのに。
 それなのにいつまでもこんなところで拗ねて、いじけて、腐って。望みを叶える術を自ら断とうとしている彼が許せない。
 瑞垣は今でも門脇に嫉妬している。
 諦めたはずの野球に対して、未だに未練がましい思いを抱き続けている。
 だからこそ腹が立つのだ。
 もしも自分と門脇が幼馴染でなかったら。
 もしもこんなに野球が好きでなかったら。
 もしも、自分がもっと満たされた人生であったなら。

 適当な言葉で無責任に励ますことができただろうと思う。

 それともいっそ、
 門脇のことが心底嫌いなら良かったかもしれない。
 こんなことになってざまあみろって。情けない姿を見て嘲笑っていられるほど、大嫌いなら良かったのに。
 そうしたらきっと、こんなに苦しくなったりしない。
 類稀なる才能に恵まれたあの男が、単純で無神経で周りを顧みない幼馴染みのあの男が瑞垣は嫌いだ。
 だけどそれは嫉妬からくる感情に他ならないことを、瑞垣は自分自身でよく理解していた。
 まっすぐで輝かしい彼が羨ましかった。
 厄介な感情だと我ながら思う。

 瑞垣は重い腰を上げ、散らかった床を片付ける。

 一人暮らしには広すぎる部屋だ。
 地上からは遠く、車の音も聞こえない。テレビがついていないと、静かで反対に耳が痛くなるような部屋。
 門脇がプロ入りを果たし、有名になって、遠い存在に感じたあの日を思い出す。
 とてつもないような孤独を感じた。
 そして今も。
 このまま門脇がもっともっと駄目になって、立ち直れなくなるまで堕ちていって、野球から離れてしまえば、門脇には瑞垣しか残らない。
 だけど瑞垣はそれを望んでいない。
 どんなに憎らしくても、妬ましくても、彼は瑞垣の憧れだった。
 だからどんな難局にぶつかっても、それに打ちひしがれたとしても、

 昔のように、
 ただまっすぐ前を見て歩いて。

 そんなことを願わずにはいられないのだ。

「あー……」

 ソファにもたれ掛かって、首を仰け反らせる。
 潤んだ瞳に、視界が揺れた。
 どちらにしても自分が辛くなるのは目に見えている。
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